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関西錦陵エッセイ


私の映画遍歴

昭和41年卒 古賀 大生

  私が物心ついた頃、正月に叔父に連れて行かれた映画館は、確か行橋駅の近くの線路沿いにあったような記憶がある。
もちろんモノクロ映画で、全編が暗いサスペンスに包まれた西部劇で、今から思えばゲーリー・クーパー主演の“真昼の決闘”のような気がする。映画に感激するには、その当時の私はあまりにも幼すぎた。
  私が小学校2, 3年生の頃だったと思うが、始めて父に連れて行ってもらった映画はチャップリンの“モダン・タイムス”だった。行橋の宮市のはずれの川の傍にあった洋画専門館で、私にとってその映画は目を見張るシーンの連続だった。
  ところが、併映の“駅馬車”が私のその後の映画人生を変えることになる。言わずと知れた映画の神様、ジョン・フォード監督の不朽の名作で、若きジョン・ウェインのデビュー作である。初めて触れた西部劇の面白さは、強烈なほど幼心に焼きついた。

ある程度自由に行動出来るようになった中学生の頃、期末テストなどが終わり半ドンの日はバスで行橋まで出かけ、貪るように西部劇を見続けた。
時代はまさに西部劇全盛時代で、“荒野の決闘”“騎兵隊”“黄色いリボン”などなど…今から思えば、名作と呼ばれた作品揃だった。
  俳優陣もヘンリー・フォンダ、ジェームス・スチュアート、リチャード・ウィドマーク、カーク・ダグラス、バート・ランカスター…と、一味もふた味もある名優揃いだった。
  その頃の西部劇は、勿論手に汗握る活劇シーンがふんだんに盛り込まれていたが、その要所要所に人間味溢れる脇役がいたり、ペーソス漂う男女関係がちりばめられたりで、子供心に早く大人になって恋をしたいなど生意気なことも考えていた。そして、高校時代にハワード・ホークス監督の“リオ・ブラボー”に巡り会った時、ジョン・ウェインは私の中のヒーローになった。

  娯楽西部劇の傑作中の傑作“リオ・ブラボー”。
共演者は、アル中の保安官助手にシナトラ一家の歌手ディーン・マーチン、若き二丁拳銃の名手に当時アメリカで超アイドル歌手だったリッキー・ネルソン、保安官事務所の足の不自由な老雑用係に名優ウォルター・ブレナン、保安官に心を寄せる女旅芸人に足線美で有名なアンジー・ディッキンソンと、ジョン・ウェインを取り囲む脇役の凸凹コンビが魅力的な作品だった。勧善懲悪のストーリーは単純だが、その当時の映画にしては長すぎる2時間半があっという間に過ぎ去る傑作だった。ジョン・ウェインとハワード・ホークスとの関係はこれ以降、“ハタリ”“エル・ドラド”“リオ・ロボ”と、痛快な娯楽大作が並ぶことになる。
  同じ西部劇でも、ジョン・フォードがスリルとペーソスを交えて人間性を描いたのとは対照的に、ハワード・ホークスは徹底的に娯楽性を前面に出した作品作りに徹底した。進学勉強に専念(?)していた思春期の私には、その娯楽性が唯一の気分転換になっていたのかも知れない。

  高校時代から浪人生活を経て大学の前半まで、ジョン・ウェイン主演の映画が封切られると、小倉まででも見に行くようになったが、彼が“アラモ”に象徴されるように映画製作を自分でやるようになると随分と傾向が変わり、駄作に近い作品が並ぶことになったのは悲しいことだった。その意味では、三船敏郎が黒澤明を離れて辿った運命と共通するところがある。

話は変わるが、黒澤明がジョン・フォードに影響を受け、その黒沢明に影響を受けたのが今をときめくジョージ・ルーカスやスチーブン・スピルバーグで、“スター・ウォーズ”のズッコケロボットC3POやR2D2の原形は、黒澤明の“隠し砦の三悪人”の凸凹コンビだというのは有名な話である。
  勿論、最近のロードショーにも良い作品はあるが、昔の日本映画、とくに黒沢映画“用心棒”“椿三十郎”などは、今でも仕事に疲れた時などにビデオで見ると一服の清涼剤になる。この頃の映画は、のんびりしており心が洗われ、言うにいわれぬ間(ま)がなんとも心地良い。

また最近はイタリア映画の大ファンで、特にお奨めベスト1は、“ニュー・シネマ・パラダイス”である。
イタリアの名監督ジョゼッペ・トルナトーレの約10年前の作品で、映画ファンなら堪えられぬ一品で、映画好き以外の方にも是非とも観てもらいたい秀作である。特に最後の5分間で涙が溢れて来るので、是非ともハンカチを用意して見て頂きたいと思う。
  テーマ曲も秀逸で、イタリア映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネ作曲である。彼の日本でのデビュー作はクリント・イーストウッド主演の“荒野の用心棒”で、日本人にとっては口笛がたまらない哀愁の漂うメロディである。
テレビドラマ“ローハイド”でデビューしたクリント・イーストウッドが、マカロニウェスタンのヒーローとなり、今ではアカデミー賞を取る大監督になるとは想像だに出来なかったが・・。

  映画の素晴しさは、日常では経験できない異次元の世界へ引きずり込んでくれ、色々な人生を仮想体験させてくれることである。良い映画に巡り合って、人生観が変わることもある。人生を何倍にも楽しむためには、愚作、秀作に拘らず、ことある度に映画に接する機会を作ることだと思う。見続けているうちに、必ず自分の感性に合う映画に巡り合えるはずである。

いやー、映画ってのは本当に良いもんですねー!・・・・(水野晴男)
それでは皆さん、さよなら、さよなら、さよなら・・・・(淀川長治)



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